刑事上の制裁

罰則の定め

会社が労働者に時間外労働や休日労働をさせた場合、労働の種類に応じた残業代を支払う必要があります(労働基準法37条1項)。

それにも拘らず、会社が労働者に対して残業代を支払わなかった場合について、労働基準法は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科す旨の定めをしています(労働基準法119条1項1号)。

罰則に至るまでの流れ

会社が残業代を支払わないからといって直ちに労働基準法による罰則が適用されるわけではなく、その前提として労働基準監督所が関与することになります。

労働者からの通報等より会社が残業代を支払っていないことが判明した場合、まずは労働基準監督官が会社に対して立入調査を実施します。

そこでは関係者への聴き取り、実際の職場での労働者の勤務実態の把握、タイムカード等の労働関係書類の確認が行われます。

立入調査により会社が労働基準法に違反して労働者に残業代を支払っていないことが確認された場合には、労働基準監督官から会社に対して、労働者に未払いの残業代を支払うよう是正勧告がなされます。

この段階で会社が非を認め、労働者に対して未払いの残業代を支払った場合にはこれ以上の段階に進むことはありません。

しかし、会社が労働基準監督官の是正勧告に従おうとしない場合や会社の労働基準法違反の程度が著しく、態様が悪質であると労働基準監督官が判断した場合には、会社が労働基準法違反により起訴され、上記の罰則を受けるということになります(代表者が逮捕されるというケースもごく稀に存在します)。

金銭上の制裁

遅延損害金

会社が営利法人か非営利法人かで遅延損害金の利率は異なりますが、一般的な会社であれば、残業代が発生した月の給与支払日の翌日から会社が当該残業代を支払うまで(残業代が支払われる前に労働者が退職した場合には労働者が退職する日まで)年6%の遅延損害金が発生します(商法514条)。

労働者が退職した後については、労働者の退職日の翌日(最終の給与支払日が退職日後である場合にはその部分については給与支払日の翌日)から会社が当該残業代を支払うまで年14.6%の遅延損害金が発生します(賃金の支払の確保等に関する法律6条)。

付加金

会社が労働者に対して残業代を支払わない場合、裁判所は、労働者の請求によって、最大で未払いの残業代と同額の付加金の支払いを命じることができると定められています(労働基準法114条)。

付加金の支払いを命じられた場合、会社は最大で労働者に対して2倍の残業代を支払わなければならないことになりますが、付加金の支払いは常に命じられるものではなく、裁判所の裁量(会社の労働基準法違反の程度や態様を考慮)に委ねられています。

また、付加金請求には未払残業代発生から2年間という期間制限があり、これは未払残業代の請求のような延長は認められていません。

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