1 はじめに

以前の記事「交通事故とムチウチについて(総論)」で、後遺障害には1級から14級まであり、むちうちの場合は、12級か14級の取得の可能性があると書きました。

それでは、自賠責で決まっているそれぞれの認定基準はどうでしょうか。

どのような基準を満たせば、後遺障害となるのでしょうか?

・14級9号 【基準】局部に神経症状を残すもの

・12級13号 【基準】局部に頑固な神経症状を残すもの

2 14級9号認定のポイント

ここからは、それぞれの認定基準のポイントを見ていきます。

自賠責保険の基準では、14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」にあたれば認められるとされています。

これだけでは何のことかわかりませんね。この中身は、以下のような基準になっています。

①「医学的に説明可能」な神経系統又は精神の障害を残す所見があるもの

②医学的に証明されないものであっても、受傷時の態様や治療の経過からその訴えが一応説明つくものであり、故意に誇張された訴えではないと「医学的に推定される」もの

ここでのポイントは、①のとおり、医学的に「説明可能」かどうかです。

例えば、車対車の事故でミラーを擦っただけという場合に、「衝撃があった。むちうちになった。」と訴えても、医学的に見ると、その程度の衝撃でむちうちになるわけがないという事で、「医学的には説明不可能」となります。

医学的に説明可能というには、むちうちが起こるような事故態様でなければなりません。

次のポイントとしては、「医学的に証明されなくてもよい」という事です。

例えば、レントゲンやMRIを取った時に、あきらかに頸部に異変が起きていれば、痛みが医学的に証明されたことになります(ただ、もともとの既往症だったり、年齢変性かもしれないという問題はあります)。

ただ、むちうちは、画像所見がでないことが多くあります。

そのような場合でも、「痛みがうそではないな」と、推定できれば、14級9号が認められる可能性があるのです。

これらをふまえて、少しでも認定の可能性をあげるために、どのような対策があるか見ていきます。

対策⑴ 事故態様を証拠として残しておくこと

例えば、低速で追突されたり、衝突されたのに被害車両にほとんど損傷がない場合は、それだけで、「大したことのない事故だ。」と見られてしまいます。

また、被害にあった車をすぐに廃車してしまうと、どのような事故であったかわかりません。

一般的には、保険会社が手配したアジャスターが、事故車の写真を撮り保存してありますが、写し方が不十分だったり不鮮明なことがあります。

したがって、事故態様を証拠化するには、以下の事に気を付けてください。
・事故直後に、ご自身で車のへこみや傷を写真に撮っておく
・廃車をせざる得ない時も、廃車前の状態を写真に撮っておく
・修理した場合は、修理に関する書類一式を保存しておく

対策⑵ 継続的に整形外科に通院をすること

後遺障害の認定を受けるにあたって重要なのは、以下の2点です。
①被害に遭ってからすぐに病院で治療を受ける事
②継続的に通院をすること(通院日数、通院間隔)

例えば、事故から2週間経ってからはじめて整形外科に行っても、事故との因果関係を疑われてしまう可能性があります。

また、病院に行く間隔が空いてしまうと、「その程度の痛みしかないのか」という推測をされ、後遺障害認定がされない可能性が高くなってしまいます。

少なくとも、週に1~2回、3ヶ月以上は、通院実績が必要と言えるでしょう。

事故直後は興奮状態にあり、痛みを感じにくいというケースもあります。

したがって、事故に遭ったら、痛みが無くても念のため病院で診断を受ける事をおすすめします。

対策⑶ 医師に症状をきちんと伝える事

①むちうちの後遺障害認定には、「症状の一貫性・連続性」が重要となります。

例えば、事故の直後は、「左側の首・肩が痛い」と言っていたのに、2か月後には、「右側の首・肩が痛い」と訴える場合、症状の一貫性・連続性が無いと評価される可能性があります。

事故直後から一貫して同じ部位の異変を訴えている方と、症状がころころと変わる方と比べると、やはり後者の方の訴えには、信用性に疑問がついてしまうのです。

②つぎに、「症状の常時性」も重要です。

後遺障害は、常時異変があることが前提をされています。

例えば、「雨の日だけ痛む」というような場合は、常時性が無いと判断されます。

もちろん、天気や条件によっては、症状が強くなるというケースもあるかと思います。

そのような場合は、医師への伝え方に注意が必要です。

患者さんの訴えている症状は、基本的には、医師のカルテや診断書を基に判断されます。

そうすると、医師が間違って記載をする可能性がありますし、患者さんの訴えが正確に反映されていない可能性もあります(カルテに記載がない症状は、その時は異変が無かったと見られてしまいます)。

したがって、医師には、「その時の症状をきちんと正確に伝える」ということを心掛けていただければと思います。

対策⑷ その他の注意点

①人身事故として届け出たか
交通事故に遭って警察に届け出ても、「人身事故」ではなく、「物損事故」としか届けていないケースが少なからずあります。

人身事故扱いとする場合は、警察に診断書を提出しなければなりません。怪我をした場合は、必ず人身事故の届出をしましょう。

人身事故扱いにしていない場合、「症状が軽いから人身事故にしていなかったのでは」と判断される可能性があります。

②MRI撮影はしているか
整形外科によっては、MRI撮影設備がなく、受診してもレントゲン検査しかできない場合があります。

そのような場合、設備のある外部施設でMRIを撮る指示をする医師もいれば、レントゲンだけで判断する医師もいます。

しかし、むちうちの後遺障害認定においては、MRI撮影による検査はしておいたほうが良いと考えます。

まず、レントゲンでは映らない以上が、MRI撮影で発見される可能性があります。

そして、仮にMRI撮影でも異常なしと判断されたとしても、「必要な治療をしている」という事実が重要となります。

MRI撮影検査をしていないと、「そこまでする必要のない軽い症状であると医師が判断したのだろう」と思われる可能性があります。

したがって、できる限り、MRI撮影はしておくと良いと考えます。

③他覚的所見はあるか
他覚的所見とは、大きく分けて下の二つの検査により、痛み等が推定できるかということになります。

医学的な裏付けがあるかないかで、後遺障害認定の確率が変わってきます。

・画像所見
例)MRI撮影、レントゲン撮影、CT撮影等

・神経学的所見
例)ジャクソンテスト・スパーリングテスト、SLR・ラセーグテスト・FNSテスト、腱反射
筋委縮検査、握力検査、可動域検査

非該当とされる主なケース(後遺障害等級の認定が否定される場合)

14級の認定獲得のポイントを説明してきましたが、逆に、どのような場合に、非該当=認定は認められない という判断になるか整理しました。

①事故の態様が軽微(車を少し擦った等)
②通院回数・実績が少ない
③症状の一貫性・連続性がない
④症状が軽い・常時性がない
⑤他覚的所見が無い

3 12級13号認定のポイント

・12級13号の認定基準は、
「局部に頑固な神経症状を残すもの 」となります。
これは、「症状が、神経学的検査結果や画像所見などの他覚的所見により医学的に証明できる」場合に該当します。

・14級9号との認定の違い
14級の場合は、症状について医学的に説明可能で痛み等が推定できればよいのですが、12級の場合は、「証明」が必要となります。

したがって、症状の原因となる神経根の圧迫等が、MRI画像などで明確に見える事が最低限必要です。

14級と比べて、かなり重篤な症状の場合となります。

また、圧迫やヘルニアが画像で発見されたとしても、それが、「事故により生じた」と言える必要があります。

ヘルニアは、加齢により出現することもあるので(年齢変性)、医師に、画像所見をいただく際には、慎重に見ていただく必要があります。

12級獲得のためのポイントとしては、以下のものがあげられます。

①事故直後にMRIなどで精密な検査をすること
②事故の態様について証拠を提出すること
③医師が作成する後遺障害診断書の記載において、画像所見が交通事故により生じたことなどを書いていただく(因果関係)
④神経学的検査ももれなく実施する

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